Kを発音したくなったり、ならなかったりする。

knowの中には今が、knightの中には夜が含まれています。そんなことより、私が好きな人はローマ字にした際Kで始まる人が多いんです(あるいは多いknです?)。そうそう、傘もKでした。" Kといえばカフカの「城」の主人公が・・・" と口にしがちだった多感な頃よりは私も大人になった、あるいは自由になったと思いたい一心で開設しています。同じことしか書けないなら同じことを増やそうと思います。

あっ!

 昼前に起きて思い浮かんだもの同士が結び付き、閃いた気になったが、書き残さないうちに外出し、忘れてしまった。自業自得だが、よく言われているように、忘れてしまう程度のことだったのかもしれない。ただし、忘れてしまう程度のものでもそれを入り口として、その中には見付けにくいが見付けるべきものがあったのかもしれない。いや、その深さを問わなければ絶対にあったはずだろう。言い換えれば、別の、極論すれば、今思い浮かんだことからだってその場所には辿り着けるはずだろう。そんなことを帰宅後書いているが、外出中は、数年前の出来事を思い浮かべて、スマホにメモを残していた。実際の出来事だから、それを中心に書くのは浅はかな気がしたが、心の中の変化に気付いて、気になったのだ。その実際の出来事から、朝思い浮かんだが忘れてしまったことから辿り着きたかった場所へと向かってみるとする。難しいだろうが、出発時はせめてそう思わないと進まない。
 その出来事とは、とある海外での引ったくり被害のことだ。あまりにも無防備で同じことをしようとしてもできないと今は思うが、とある地下鉄の駅構内でチラシを手にして一瞥した後、階段を下りている最中に、後ろから飛んできた「ヘーイ!」という声と共に首を羽交い締めにされ身体が浮いた。その前に軽く背中を蹴られていた気もする。ともかく、何も抵抗ができない状態となった。痛くはなかったが、あっまずい!とはいたく思った。数秒後、少しだけ振り返ることができたので見ると、ドルフ・ラングレン似の白金の髪をした20代と思しき青年が、険しい顔をしていた。その横では、トレイン・スポッティングに出てきそうな痩せこけて貧相だが長身の青年が少し背中を曲げながら私のウェストバッグを強引にずるっと外して、私の前に飛び出して走り始めた。この時になって、「あっ!」、これは村八分にある超好きなロックの名曲だが、まさにその一言が私の全身を埋め尽くした。どうしてそんなことができたのか、私も私でするっとその羽交い締め状態を抜け出すと、青年を追い掛け始めた。その前に三人目の青年も登場し、ファミコンのゲーム「スパルタンX」に登場するような、足を出したり引っ込めたりで私をこかそうとしてきたが、全く怯まず、それを飛び込えて先の青年だけを注視しながら走り続けた。どうやって地上に出たのか全く覚えていないが、地上に出て数秒はその青年の姿を見たことは覚えている。その時には、もう100メートル程度の距離は開いてしまっており、すぐに青年は視界から消えてしまった。私は、「待たんかーーーっ!」といったことを叫んで、立ち尽くした。
 旅行におけるほぼ全財産と何よりパスポートがそのバッグには入っていたので、文字通り立ち尽くしたのだが、すぐに辺りの異様な雰囲気にも対処しなければならなくなった。頭の中では絶望的になりながらも、身体的なセンシング機能が、たった今も危険だと告げていた。刑事ドラマに対し昔から思っていたことだが、ドラマのように一つの事件を中心にした世界などなく、実際はもっと複数の異なる事件が輻輳しているはずだろう。気になるのは、その輻輳をどう表現すればいいか?が未だ未だ追求されていないのではないか?ということだ。追求もされないまま、それは追求するのが大変だからだろうが、限られた時間内で、あれもこれもと複数の事件を一つの同時代的な状況として展開するのは「ドラマのセオリーに反する論外な構成、そんなのだいいち面白いわけがない」とでも考えられていると思っていた。だったら、面白くする方法を考えればいいのにと。ともかく、その時こんな考えを思い浮かべたわけではないが、今もそう思う。その時は、にやにや笑って街角のあちこちに二、三人でつるんだ感じで立っている男性を中心とした光景に再び身体が「あっ!」と反応していた。自分で自分を操作するように、まず何でも良いからと、衣服店らしき店に飛び込むと、同じようににやっと笑う店員に「フェアイズポリスボックス?」と尋ねた。英語圏ではないが、必死さもあってか伝わったようで、後で実際に正しいと分かる警察署の場所を手差しで教えてくれた。偶然とはいえ、すぐ近くで本当に助かった。後で知ったが、この駅のある地域は、同国の住民もなるべく近付かない傾向にある場所らしかった。確かに、何らかの違法な取引があからさまに横行している光景だったと今は思う。ポケットの中に残った数ユーロとiPhoneだけが全財産となった身体で、全身を敏捷な筋肉に変えて、不自然過ぎないが、遅くはない走り方で、必死な形相ではあったと思うが、何とか警察署に辿り着いた。
 その後、長い長い待ち時間を含む数時間をポリスレポートの作成で費やし、別れ際に初めて笑顔を見せてくれた警察官と握手し、今度は全速力で薄暗くなりかけている街中を駅まで走った。待ち時間では、英語で話してくれたので何となく理解したがiPhoneを盗まれたばかりだという母娘がしばらく私に話し掛けてくれて落ち着くことができた。最初泣き続けていた娘の女性も、いつの間にか泣き止んでいたのは良かった。そんなこんなで、現場に戻るなんて、また被害に遭ったらと考えそうなものなのによくそんなことをしたものだと思うが、数ユーロで同じ駅から基幹的な駅まで移動した。パリ北駅だ。外出したくなったのと、時には中断することがこの場所であっても良いと思ったので、続きは明日以降とする。