Kを発音したくなったり、ならなかったりする。

knowの中には今が、knightの中には夜が含まれています。そんなことより、私が好きな人はローマ字にした際Kで始まる人が多いんです(あるいは多いknです?)。そうそう、傘もKでした。" Kといえばカフカの「城」の主人公が・・・" と口にしがちだった多感な頃よりは私も大人になった、あるいは自由になったと思いたい一心で開設しています。同じことしか書けないなら同じことを増やそうと思います。

 移動すると、足元の光景も変わってくる。もっとも、これが砂粒単位の地面を対象とするのなら、どこでもそうだが。今回記録したい対象は、地面というより人が身に付けている文字通り足元の靴だ。また、移動と一口に言っても、地理的なものばかりではなく、状況的なものも含んでいることにも注意したい。例えば、チェーン店の場合、頭からつま先までビシッと同じ制服、靴で統一を図っている所もあれば、足元だけは間違いなく私物のままという不揃いな所もある。後者の方が印象に残っているので、相対的な利用度は少なかったのかもしれない。また、世の中全体としては、チェーン店全般で靴に私物を使用する方が少ないのかもしれない。ともかく、総じてスニーカーという共通項はあれど、色や素材やメーカーがばらばらな靴が動いているのを見て、楽しくなっただけでなくなんだかホッと安心して親しみが湧いたのを覚えている。
 もちろん、その店の肝心の商材やサービスについて嫌なことが起こったとしたら、そんな感情には至らなかった可能性が高い。足元単体ではなく、身体全体やその周囲までを含めた集まりとして、こちらの感情に働きかけてくるし、こちらもまた、そのような全体としてしか捉えられないのかもしれない。先に私が感じた印象について相対的と使ったのも、正にこの限界を超えていないからだろう。しかしながら、そういう全体という集合体を時に分断するように、あるいは既存の色を塗り替えるように、靴のような一部分にその地域や時には世界全体の風景を重ねていることもあるのではないか?と思う。これまでの経験の中から絞り出そうとするもすぐには出てこないが。
 先の地理的なものだと、降雪が日常的な地域の、そうでない地域の店ではほぼ目にすることのない多種多様なスノーブーツやタウンユースの長靴がある。お分かりの通り、私は降雪とはあまり関係がない地域に住んでいるが、それだからか、初めて北海道を訪れた際には、ブーツではないにせよ厚目のスニーカーを履いていたのとは無関係に、何だか土足で他人の家に踏み込んでしまったかのようで、恥知らずな行動を平気でしてしまったといった後ろめたい気持ちになった。いたって普通に様々な人たちがいたという点で、ありふれたともいえる光景なのに、目の前の人たちがどこか敬虔な人たちに映った。そして、その感覚は初めてでなく再訪時や東北地方を訪れた際にも時折顔を覗かせた。急に仲間入りできるというのは不自然極まりないが、それでも、自分の中から仲間になりたいな、ひと言ふた言でも言葉を交わしてみたいなという気持ちが生まれているのは否定できなかった。同時に、敬虔と表した通り、まだそんな都合よく関わるのは許されていないという実感もあった。後付けで、スニーカーの語源ではないが、何もなかったように通り過ぎるのが旅のマナーでもあるしと、自分への言い訳なのか言い聞かせなのかもすることになった。滞在日数が多かろうが少なかろうが、旅先を歩行しているのは確かだが、その靴跡はまだ点々も点々であって、轍は無理にせよ線にはなっていない、だから後ろめたいのか?とも思う。日数に関係のない力強い足跡があるのでは?とも思う。

 線でない点々といえば、旅先での訪問地を記録しているGoogleマップも思い浮かぶ。これも、同様の理由で後ろめたさを覚えていた。目的地間を通過しているその途上も、本当は訪問地なはずなのに記録していないのか?!というばつの悪さがあった。点が二つ以上ならぶとそこに自ずと線を見出してしまうグラフを観察するのが得意な人に自分がなっているかのようだ。それはそれで生活のためだというなら、一方で線にしてしまう前の点のままの状態を眺める自分も出現させたいと思った。

 賑やかではないひっそりとした町屋を昨年の今頃訪問していた。江戸時代の酒屋という非日常的なはずの建物の中にあって、その実物凄く素敵な平凡の中にあったと思う。その町屋をこの後再訪したいと思う。先程、陰性を告げる42回目のPCR検査結果なら到着した。移動の前後に受け続けてきただけだが、自分経由ではないことを確かめて自分が安心したいだけの自愛の靴が乱雑に脱ぎ捨てられているようで、記録する方がかっこ悪いのだが、ごまかさずに残しておきたい。もっともこの結果とて、点でしかなく線は別にあるのではないか?と考えることはできるのだが。これから、その想像を止めて靴を履くことになる。